『嫉妬』



愛


目に見えるようで見えないモノ。


たった一言好きと伝えればすむことなのに

たった一言伝えられなくて。


失うことの代償は遥かに大きいのに

それにすら今は未だ気付くことが出来ないから

彼らはこうして傷つけあい癒しあうのだ。









朝から張遼は苛々していた。
普段はあんなに紳士で温厚な彼だが、ずっと不機嫌そうにしている。

誰とも話さずに、部屋で独り職務をこなしているのだが……


問題なのが独りであるということ。

そう、桃音が居ないのだった。



それは一昨日のこと。


司馬懿に書類を届けに行く途中見た光景が原因だった。

中庭で曹操、甄姫、曹丕と一緒に笑っている桃音。
己と一緒のときはあんな笑顔をしたことなどないのに。
楽しそうで、幸せそうだった。

一見すると家族の団欒の様な光景。

それを見たとき、胸の奥がジンとした。
何故か悔しくて苦しかった。


未だによくわからないこの感覚が己を支配して止まない。



そう、それは嫉妬。

最も醜いとされる感情。


あのとき、曹操らに嫉妬したのだ。


誰にも見せたくなんて無い
私だけのもの……。


その感覚こそが嫉妬だと気付かずに、その夜荒立った感情のまま桃音を抱いてしまう…。
嫌がっていた桃音を無理矢理。。。



後悔してもそれは後の祭り。
それ以降桃音は張遼を避けるようになってしまった。


職務は別の部屋で
寝室も別の部屋
目があってもすぐに逸らし逃げる



それが2日経った今でも状況は変わらずにこのままなのだ。

普段なら鬱陶しいくらいに目の前をちょろちょろしているというのに…

己にとってあの娘がどれだけ愛しい存在なのか、再確認させられたようだ。


煮詰まった頭を冷やしに鍛錬場へと向かう。
そこには夏候惇と徐晃…それから桃音が居た。

だが、いつもと3人の雰囲気が違う。

離れていても聞こえてしまう程の泣き声
夏候惇の腕の中にいる桃音…
その傍でオロオロしている徐晃

張遼はその場に足が凍りついたかのようにしばらく動けなかった…


はっとして、立ち去ろうとすると…
それよりも先に徐晃が張遼を捕まえに来ていた。

「張遼殿、夏候惇殿がお呼びでござる。」

夏候惇のほうをチラッと見ると鬼のような形相で張遼を睨みつけている。
桃音はというと、その夏候惇の後ろに隠れるようにしてこちらを見ていた。

溜息を付くと観念したのか夏候惇のほうへ向かう。

夏候惇は何か言うわけではなく、ただ桃音と向き合わせたかったのだろう。
さすが魏の母、夏候惇。

「今日は館に帰れ。孟徳には俺から言っておく。」

そういうと徐晃とその場を去っていった。


その後、桃音と二人で無言のまま部屋に戻る。
しばらく続く沈黙。

気まずい雰囲気に耐えかねて、張遼が部屋を出ようとすると
上着の裾を掴まれていた。

震えるその手で。


どうしてこんなにも愛してしまったのであろうか。

何故愛しているが故、傷つけてしまうのであろうか。

いっそのこと…離れてしまった方が良いのではないか…。


頭の中をたくさんの歪んだモノが溢れ出す。


それを静止させるかのように、桃音は口を開いた。


「僕は…りょーちゃんのなに…?」

「なぜそのようなことを…」


「なんで僕を抱くの?
 りょーちゃんくらい偉い人になったら、体だけの女がいる。
 でも、なんで僕なの?
 興味があるから?

 それだけなの?」

大きな瞳からはとめどなく涙が零れ落ちていく。


「モネ……」


何も言えず、ぎゅっと抱きしめる。


すれ違いからもう少しで失ってしまうところだった。
本当に愛する人を。


「これが答え…」

「言葉で言ってくれなきゃわかんないよ…」

「…愛してる。モネ、そなたのことを誰よりも何よりも愛してる。」

「…本当……?」

「何故嘘をつく必要がある。」

「そっかぁ…、嬉しい!」


先程よりもきつく息も出来ないほどに抱きしめ
そして、互いの気持ちを確かめ合うかのように激しく熱いキスをする




「ずっと一緒だよね……?」

「もちろん、ずっとだ。」
















   ---end---









泣いたカラスがもう笑う きっと桃音にはこの言葉が一番だと思いますw